論文メモ:(Pardee K et al., Cell, 2014) Paper-based synthetic gene networks

生きるということは、計算の連続である。外部からの多様なシグナルに、上手いこと対処し続けないといけない。予測不可能な多様なシグナルがある環境で、適切な時期に、適切な量の調節を、トランスクリプトーム(転写産物レベル)、プロテオーム(タンパクレベル)、etc(代謝レベル、エピゲノムレベルなどなど)、様々なレベルで出力していかねばならない。

こうした計算の結果として、個体の発生や成長を始め、色々なフェノタイプが出て、計算が人と違ったり、環境に対して不具合が出るような計算式だと、疾患が出力されてしまう。健康な発生や成長を出力する計算式にしろ、病気になってしまう計算式にしろ、他と変わったフェノタイプが、どのような違いで生まれてくるのか、というのは、非常に興味のあるところだし、実際に多くの人がそういう目線で研究を行っている。

一方で、生物の論理演算、それ自体に着目した場合、全然違う興味の持ち方もある。合成生物学と呼ばれる分野の人たちだ。合成生物学という言葉は、多様なモチベーションの人たちを含んでいるので (良く知っている人からすると、一言で括れるのかも知れないが…)、列挙する形で、この学問のモチベーションを理解してみる。

・生物の計算は、言葉で書くなら、入力シグナル→計算→出力、と簡単に表現出来るが、これを生物の言葉で書く、つまり細胞の中にある、DNAやRNAなどの物質、で再構成するにはどうしたらいいか?

・DNAやRNAなど物質で、+やーの記号を表現することが出来たなら、それを利用することで、目的の生物に、望ましい形質を発生させることが出来ないだろうか?

・そうした計算のパーツ(DNAやRNAなど物質)を組み合わせることで、生物システムの少なくとも一部、そして究極的には生物全体を、再構成することができるだろうか?また、その再構成の作業を通じて、生物を形作るのに必要な最小単位の論理式を導き出し、物質で再構成することができるだろうか?

…というのがこれまでの理解だったのだが、今回色々読んでいるときに、合成生物学の派生的なモチベーションとして、もうひとつ別のものがあることを知った。

細胞外でそういった細胞の論理式を再現して、応用可能性を高めるというモチベーションである。

(Pardee K, et al., Cell, 2014)は、細胞の論理をセルロースメンブレン(要は紙の上)で、再現することで、細胞外で、目的の論理式を再現するということを行っている(この論文によると、そういった考え方自体は、過去にも考えている人がいて、2001年に高木先生という方が、フリーズドライ式で、細胞の論理式を保存・利用していることを引用している)
著者らはこの論文及びその後の論文で、このpaper-discテクノロジーを、野外での迅速診断を見据えて、エボラウイルスやジカウイルスの検出に応用している。

また、同じ研究室からは、(Green AA, et al., Nature, 2017)という論文が最近発表されている。
(A1 AND A2 AND NOT A1*) OR (B1 AND B2 AND NOT B2*)OR (C1 AND C2) OR (D1 AND D2) OR (E1 AND E2)
という論理式を(細胞内で実装する方法を)、リボソーム結合サイト付きRNAとToehold switchを利用して、作成したという論文だ。

・Toehold switch

 paper-discの話がないと、こういう論文も、すごいけど、こんなに複雑な論理を何に使うのか、例えば好ましくない細胞を除去するなどのかたちで、病気の治療などに応用するとしても、まだ、まずどういう入力を統合すれば、特定の病気が治るのかを調べるところからだし、そもそもどうやって遺伝情報を細胞に入れるのか、入れれたとしてそれって倫理的にどうなん、っていう気がしてしまう。だから、いまいちピンとこない感じになってしまう。けれど、例えば、がんのLiquid biopsyなど、特定のバイオマーカーを検出するんじゃなくて、複数のマーカーを組み合わせて診断したい場合などに、paper-disc上で、こういう論理を使えるなら、その意味は大きい。A and B and C and (not D) and (not E)という計算をpaper-disc上で行えるようにすれば、AとBとCが発現していて、DとEがでていない人や動物の血液などでは、色が変わるというようなものを作れるのかも知れない。また、血液でなくて、唾液や汗で、何かを検出できるようにするというのも面白いのかもしれない。人間の技術では難しいけど、生物が自然にやっていることをテクノロジーに実装する、というモチベーション。

 (ただそうなってくると、どちらかというと、どんどん値段が下がって、技術が上がってきているシーケンス技術に対して、コスト、速さ、正確性、感度などで競合できるのかということが、今度は気になってくるけど。。)

参考文献
Pardee K et al., Cell, 2014
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25417167

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